宇和島虚偽自白事件の国家賠償請求訴訟判決

 宇和島虚偽自白事件については取調べ可視化ホームページでも取り上げているが、この事件で犯人だと誤認逮捕された人が、刑事事件で無罪判決を下された後、捜査の違法を理由に国家賠償請求訴訟を提起していた。その判決が18日松山地裁であった模様。

誤認逮捕で賠償請求認めず 松山地裁「自白強要なし」 産経新聞 (以下、記事一部引用)


 判決理由で沢野芳夫(さわの・よしお)裁判長は「自白を強要されたという男性の主張は、民事裁判になってから新たに付け加えられた話もあり信用できず、強要を認定する証拠はない」と指摘。捜査手法についても「当時の証拠関係に照らし、合理的に期待される通常の捜査を怠ったとはいえず、不合理な点は認められない」と判断した。

誤認逮捕で国賠訴訟請求棄却 松山地裁 愛媛新聞
無罪男性に慰謝料認めず 松山地裁、誤認逮捕巡り 朝日新聞
愛媛 誤認逮捕の賠償請求棄却 NHK

 判決をみないとわからないが、取り調べ過程の録画・録音がなされていなかったであろうと思われ、密室で何が起こったのかは水掛け論のはずなので、結局、判決は捜査機関側を信用したのだろうという印象。
 虚偽自白を強要されることなく「自発的」にする奇特な人間もいないではないが、通常はそのような人はないと言ってもいいのではないだろうか。取り調べ過程の録画・録音がなされていたら虚偽自白の強要があったかどうか、はっきりするはずで、密室での取調べの状況を事後的にすら検証できない取調べのシステムに裁判所は疑問を持たなかったのだろうか(原告側はそもそも指摘したのだろうか)。

2006.1.20 追記
 この記事を書いた後、いくつかのブログでも取り上げられていたのに接した(こちら(刑事事件の無罪判決とこの判決は虚偽自白強要の事実の認定が正反対になっているんですね。)とかこちらとか)。
 それから、毎日新聞の宇和島誤認逮捕事件:国賠請求棄却 原告男性「残念の一言」の記事も発見しました。ここにコメント・解説が掲載されていたので、引用しておく。

◇自分の権利守る意識を--元東京地検特捜部長の河上和雄・駿河台大学法科大学院教授(刑法)の話

 判例に沿った判断だと思う。ただ捜査当局はこの判決で安心してはいけない。「自白は証拠の王様」と言われるが、自白があるからといって証拠を精査しない捜査は許されない。また一般の市民も黙秘権があることなどについて知り、自分の権利を自分で守る意識を高めてほしい。

◇密室の取り調べ追認に残念だ--えん罪を防ぐ取り組みに詳しい大阪弁護士会の秋田真志弁護士の話

 判決は密室の取り調べなどを追認した結果になり残念だ。80年代にイギリスで取り調べの録音による「可視化」によって、被疑者の心理についての科学的な検証が行われ、誤った自白を証拠とした捜査が減った。虚偽自白を生まないためにも、録画・録音や弁護人の立ち会いなどを認めていくべきだ。

◇事後救済無理なら事前予防を--川崎英明・関西学院大法科大学院教授(刑事訴訟法)の話

 無実の人間が自由意思で虚偽自白することは、一般的には考えられない。(このケースで)違法性が認められないと、国賠の存在意義が問われかねない。事後救済ができないのなら、事前予防が大切だ。今年11月までに重大事件に限り、起訴前から国費で弁護士を付けられる制度が発足する。強引な取り調べをやめさせることなどが可能で、期待している。

■解説
◇「起訴前弁護」の充実を--取り調べの透明化が必要

 宇和島誤認逮捕事件で、原告男性(56)の国家賠償請求を退けた18日の松山地裁判決。捜査に違法行為があったかを重視する、無罪確定事件での国賠訴訟判決の流れに沿った判断といえる。事件は公判で検察側が男性に謝罪して無罪論告をする異例の展開をたどったが、判決は過去の判例を踏襲し、被害者救済に踏み出すことはなかった。
 今回の事件で別件逮捕や取り調べ中の暴行による自白の強要などはなかった。しかし、男性は判決前、「怒鳴られて、頭が真っ白になって自白してしまった」と話していた。取調室という密室で捜査員と対面する状況は、一般市民には大変な重圧だ。「言いようのない緊張感に耐えかねて虚偽の自白をしてしまうケースはよくある」と指摘する専門家もいる。
 事件の再発を防ぐには、取り調べ段階から弁護士がサポートする「起訴前弁護」を充実させる必要がある。黙秘権について説明したり、強引な取り調べをやめさせたりと実務的に支えてくれる弁護士の存在は力強い。実現には当番弁護士制度の周知や弁護士過疎地域の解消など、課題は少なくない。
 一方、国と県は「捜査段階での裏づけは十分だった」と主張した。しかし、“自白”した供述内容について仔細(しさい)に検討すれば、秘密の暴露の有無や矛盾点が明らかになった可能性は否定できない。
 判決は「自白の強要は認められなかった」としたが、それを証明する証拠は残っていなかった。取り調べは密室で行われるのだから、中身を客観的に検討するのは不可能だ。取り調べの録画、録音を取り入れて、透明にすればすべての証拠が残る。捜査当局を含めて、導入の論議を本格的に始めるべきではないか。誤認逮捕を減らす有効な手段だと思う。
【津久井達】
毎日新聞 2006年1月19日

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