取調べ可視化 最前線

懲役3年の判決を受けて服役を終えた男性は「無実」だった

 遅ればせながら、約一ヶ月前に報道された誤認逮捕の件をアップしておく。この事件の報道を整理していると、捜査機関の捜査のあり方に関し、宇和島事件や「踏み字」事件と相当程度の共通点が見受けられ、さらに(虚偽)自白強要という重大な違法のある取調べが実施されているのがよくわかる。この事件に関しては、取調べの過程を含め捜査機関(警察・検察)の捜査のあり方について徹底的に調査し、検証する必要があろう。また、この事件は誤起訴・誤判事件であったことも明白であるが、公判手続に関与した弁護人も含め、裁判所及び弁護士会も、なぜこのような公判審理がなされることになったのかを徹底解明する必要があると思われる。

 報道によると、以下のようなコメントが述べられた模様。

 当時の取り調べについて、小林勉刑事部長は「威迫などはしていない。取り調べ方法は適切だったが、裏付け捜査が不十分で欠陥があったと言わざるを得ない」と話した。また、逮捕時に電話の通話記録でアリバイを検討しなかった点については「違う目的で通話記録に目を通しており、気が付かなかった」と弁明。現場の遺留物についてDNA鑑定などもしていないことを明らかにした。
 富山地検も同日、記者会見を開いた。佐野仁志次席検事は「振り返ってみると、男性を犯人と特定する客観的な証拠はなかった。吟味して精査すれば分かったことだった」と振り返った。
 また、男性を弁護した山口敏彦弁護士は「私も含め、もう少し事実関係を精査すべきだったと複雑な気持ちだ。当時、疑問に思うことはなかった」と話した(asahi.com:3年服役男性 無実 – マイタウン富山)。

 警察・検察のコメントを読む限り、「ミス」と弁解していることがよくわかる。許されないミスであるという認識はあるようだが、捜査の過程、とりわけ取調べの過程に関しては何ら顧慮するところがないようだ。
 本件を報道から見る限りでも、自白に頼る(頼りすぎる)捜査機関・裁判所の問題が浮き彫りになってなっているように思われる。

 そのほかの動きとして、

 また同県弁護士会の山本毅会長は22日、声明を発表し「男性が重大な人権侵害を受けたことは極めて遺憾。捜査機関のみならず弁護人、裁判官も真実を発見できなかったことを反省すべきだ」と批判した(無実で服役男性、検察、裁判官に容疑否認 – 社会ニュース : nikkansports.com)。

asahi.com:富山の冤罪事件、法相が謝罪 – 社会 2007年01月26日11時41分
 強姦(ごうかん)罪などで実刑判決を受け約2年間服役した富山県の男性(39)の冤罪が発覚した問題で、長勢法相は26日の閣議後の会見で「服役された方には本当に申し訳ないと思っています」と謝罪した。「若干捜査に不十分な点があったのではないかと思う」とも述べた。
 この問題を巡っては25日の自民党法務部会で議論が集中。「(誤判がないことを前提にした)死刑制度を含めた日本の司法制度を揺るがす問題」として「取り調べ段階の可視化(録音・録画)を求める動きが強まるのは必至」との意見も出た。
 これについて長勢法相は「取り調べに(自白の強要などの)問題があって(罪の)容認に転じたことはなかったのは明確」とした上で、「色々な議論はあるところで、慎重に検討していくべき問題だ」と述べた。

がある。しかし、法務大臣の認識には呆れてしまう。謝罪したと言うが、言葉の上だけ、リップサービスにすぎないとの印象を払拭できない。上記発言(赤字部分)は、捜査の全過程の徹底解明など全くせず、特に(重大な)違法取調べを棚に上げて、捜査機関は悪くなかったと言っているのとかわらないように見えるからである。

 ところで、この事件だが、約5年前の2002年1月中旬頃、富山県内で起きた強姦事件と同年3月頃に起きた強姦未遂事件の犯人としてAという男性が同年4月頃逮捕されたという。
 警察から任意同行を受け2日間は否認していたが、3日目に認めたので逮捕されたという。任意同行により事情聴取を受けたときは、Aの兄や知人には「身に覚えがない」と話していたという。
 ところが、逮捕後の弁解録取の時点で検察官に対し被疑事実を否認し、勾留質問の時点で裁判官に対しても被疑事実を否認したという。勾留後の取調べの経緯は判然としないが、起訴後は一貫して事実関係を認めていたという。
 そして、同年11月に懲役3年の実刑判決が言い渡され、確定しAは服役した。2005年1月仮出所し所定刑期を終えた。

 Aが犯人であることを裏付ける証拠としては似顔絵や被害者の証言が決定的だったようだ。

 しかし、Aが犯人であることを否定する証拠もあった。2事件の犯行現場にあった足跡がAとは一致しなかった。
 そのほか、Aは2002年3月の事件の犯行時刻頃自宅から(固定)電話を架けていたとアリバイを供述していた。

 ところが、警察は、当時、足跡の不一致には目を覆い、現場の遺留物についてDNA鑑定もしなかった。客観的証拠の存在を無視し、信用性の点ではこれらの客観的証拠よりも問題の多い似顔絵や被害者の供述(犯人識別供述については多数の研究があり、これに頼りきることの危険などがつとに指摘されている)に頼り切ってしまった。

 Aのアリバイに対しては「偽装だ」と取り合わず、通話記録さえも検討しなかった(警察官は、相手が電話はなかったと話していると虚偽まで言った)。誤認逮捕だったことが判明した後の検討では

男性宅の電話の通話時刻と犯行時間 が近く男性の犯行は難しいことなどが分かったという(asahi.com:3年服役男性 無実 – マイタウン富山)。

 さらに、身内の者も犯人に間違いないといっている(Aの兄の話ではこの警察官の話は全くの虚偽)と何度もAに言って自白を迫り、Aは(虚偽)自白をすることになったという。その後、さらに、

 「『うん』か『はい』以外に言うな。『いいえ』という言葉を使うなと言われた」とし、「今からいう言葉を一切覆しません」とする念書も書かされ、署名、指印させられたとも語った(富山県警誤認逮捕の男性「身内が認めたと迫られ自白」 : 社会 : YOMIURI ONLINE(読売新聞))。

 誤認逮捕が発覚した経緯は、2006年8月頃、鳥取県でBという男性が強制わいせつ事件で逮捕された。そしてBはこの富山県内での2件の強姦・強姦未遂事件について自己の犯行を認める供述をした。これにもとづいて再捜査したところ、Bの足跡と現場に遺留された足跡が一致したという。真犯人が現れたのである。

 以上に述べたとおり、報道によれば、本件でも(重大な)違法取調べが行われたのは明らかというべきであろうし、また捜査のあり方としても客観的科学的捜査からはほど遠い感がある。
 今まさに、杜撰な捜査や自白偏重の弊風、密室での取調べの大きな弊害をなくするための具体的な方策が提示されなければならない時期が来ているのではないか、取調べの全過程の(録画・録音による)可視化を皮切りに捜査全体が自白偏重を排した客観的・科学的なものになるような節目ではないか、と思われる。なお、上記で述べた事実関係は報道で聞知した範囲であることを予めお断りしておく。

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