最近の最高裁判例から~弁護人の被告人に対する義務

 2005年11月30日19時32分 読売新聞によれば、

被告一転無罪主張、弁護士は有罪主張…弁護士に軍配

との見出しで、以下のような記事が掲載されていた。

 被告が公判途中で無罪主張に転じた後も、弁護士が罪を認める主張を続けた場合、被告の防御権の侵害として違法になるかどうかが争点となった刑事裁判で、最高裁第3小法廷(上田豊三裁判長)は「違法ではない」とする決定をした。決定は29日付。
 決定は、栃木県鹿沼市の環境対策部参事だった小佐々守さん(当時57歳)を殺害したとして、殺人罪などに問われた不動産仲介業飯田(旧姓・吉田)義雄被告(62)に対するもの。被告側の上告が棄却され、懲役17年とした1、2審判決が確定する。
 1審・宇都宮地裁の最終弁論直前に、それまで犯行を認めていた飯田被告が「共犯者が1人で殺害した」と主張を変えたが、弁護士は「被告の主張は無理がある」とし、「共犯者から殺害行為を強要された」として量刑の配慮を求める最終弁論を行った。
 この弁護活動について、第3小法廷は「量刑で被告に最大限有利な認定がされることを意図しており、違法ではない」と認定した。

とのこと。なお、本日現在、最高裁のホームページにはアップされていない。

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(追記2005.12.1.)  本日最高裁のホームページに決定(第三小法廷決定 平成17年11月29日(平成16年(あ)第2172号 逮捕監禁,営利略取,殺人,死体遺棄被告事件)/裁判長裁判官 上田豊三 裁判官 濱田邦夫 裁判官 藤田宙靖 裁判官 堀籠幸男)がアップロードされている(=>こちら)。

2 所論は,本件最終弁論は,被告人の第6回公判期日以降の供述を前提とせず,第5回公判期日までの供述を前提として有罪の主張をするものであるのに,裁判所は,弁護人に更に弁論を尽くさせるなどせず,この主張を放置して結審しているから,第1審の訴訟手続は,被告人の防御権ないし弁護人選任権を侵害する違法なものである旨主張する。
 そこで検討すると,なるほど,殺人,死体遺棄の公訴事実について全面的に否認する被告人の第6回公判期日以降の主張,供述と本件最終弁論の基調となる主張には大きな隔たりがみられる。しかし,弁護人は,被告人が捜査段階から被害者の頸部に巻かれたロープの一端を引っ張った旨を具体的,詳細に述べ,第1審公判の終盤に至るまでその供述を維持していたことなどの証拠関係,審理経過を踏まえた上で,その中で被告人に最大限有利な認定がなされることを企図した主張をしたものとみることができる。また,弁護人は,被告人が供述を翻した後の第7回公判期日の供述も信用性の高い部分を含むものであって,十分検討してもらいたい旨を述べたり,被害者の死体が発見されていないという本件の証拠関係に由来する事実認定上の問題点を指摘するなどもしている。なお,被告人本人も,最終意見陳述の段階では,殺人,死体遺棄の公訴事実を否認する点について明確に述べないという態度を取っている上,本件最終弁論に対する不服を述べていない。 以上によれば,第1審の訴訟手続に法令違反があるとは認められない。

 なお、上田豊三の補足意見がある。

 私は,法廷意見に賛成するものであるが,本件が,弁護人の訴訟活動の在り方という刑事訴訟の根幹に関わる問題を含むものであることなどにかんがみ,次のとおり意見を付加しておきたい。
 刑事訴訟法が規定する弁護人の個々の訴訟行為の内容や,そこから導かれる訴訟上の役割,立場等からすれば,弁護人は,被告人の利益のために訴訟活動を行うべき誠実義務を負うと解される。したがって,弁護人が,最終弁論において,被告人が無罪を主張するのに対して有罪の主張をしたり,被告人の主張に比してその刑事責任を重くする方向の主張をした場合には,前記義務に違反し,被告人の防御権ないし実質的な意味での弁護人選任権を侵害するものとして,それ自体が違法とされ,あるいは,それ自体は違法とされなくともそのような主張を放置して結審した裁判所の訴訟手続が違法とされることがあり得ることは否定し難いと思われる。
 しかし,弁護人は,他方で,法律専門家(刑訴法31条1項)ないし裁判所の許可を受けた者(同条2項)として,真実発見を使命とする刑事裁判制度の一翼を担う立場をも有しているものである。また,何をもって被告人の利益とみなすかについては微妙な点もあり,この点についての判断は,第一次的に弁護人にゆだねられると解するのが相当である。さらに,最終弁論は,弁護人の意見表明の手続であって,その主張が,実体判断において裁判所を拘束する性質を有するものではない。
 このような点を考慮すると,前記のような違法があるとされるのは,当該主張が,専ら被告人を糾弾する目的でされたとみられるなど,当事者主義の訴訟構造の下において検察官と対峙し被告人を防御すべき弁護人の基本的立場と相いれないような場合に限られると解するのが相当である。
 本件最終弁論は,証拠関係,審理経過,弁論内容の全体等からみて,被告人の利益を実質的に図る意図があるものと認められ,弁護人の前記基本的立場と相いれないようなものではなく,前記のような違法がないことは明らかというべきである。

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